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広島高等裁判所松江支部 昭和51年(う)76号 判決 1977年1月17日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人田村康明の控訴の趣意及びこれに対する検察官の答弁は記録編綴の控訴趣意書及び答弁書各記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一  所論第一点(事実誤認)について

所論は要するに、被告人が、原判示2以下の犯行の際所持していた手製銃一丁(以下「本件手製銃」という。)は、銃砲刀剣類所持等取締法にいう銃砲にあたらないのに、これを銃砲にあたるものと認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

そこで検討するに、原判決挙示の関係証拠によれば、本件手製銃は、被告人が、雑草の下刈機の握りの部分を切り取って作った金属製パイプ(長さ約六八センチメートル、外径約二・五センチメートル、内径約二・二センチメートル)の一端に、中心に直径約三ミリメートルの穴をあけた一〇円硬貨をはめこんでふさぎ、右のふさいだ方を後部として、これを木製銃床に金属製の帯及び針金で固定し発射あるいは狙撃に便なる形体にしたもので、外観上銃砲の体裁を具えており、本件当日被告人がしたと同様に、硬貨の中央部にあけた穴に着火用のこよりを差し込み、金属製パイプの開口している先端から火薬、数個の鋼球、綿を順次詰め込んだうえ、右こよりに点火すると金属製パイプ内の火薬が爆発して鋼球を発射することができ、発射された鋼球のうちのあるものは人畜を傷害するだけの威力を有することが認められる。所論は、本件手製銃には右の威力がない旨主張するが採用できない。

ところで、銃砲刀剣類所持等取締法により所持を禁止されている銃砲とは、金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲等であって、人畜に傷害を加えるに足りる程度の威力を有するものであることを要し、かつ、機能上はこれをもって足りるものと解すべきであるから、右外観及び性能を有する本件手製銃が銃砲にあたることは明らかである。所論は、銃砲にあたるといえるためには、火薬の爆発による圧力を増強するための密閉装置を有する装薬、装弾装置と名のつく構造部分を具えていることが必要であるところ、本件手製銃は右構造部分を具えていない旨主張するが、前記法律は装薬、装弾装置と名のつく構造部分を具えていることを銃砲の要件としてはいないのであって、右の機能を有する密閉装置がなければ、前記の威力を有するだけの発射機能を欠く結果、銃砲にあたらないことになることがあるにすぎないものと解されるところ、本件手製銃においては、金属製パイプの一端を硬貨によってふさぎ、他の一端から綿を挿入することによって密閉の機能を果させているのであり、これにより前記のとおりの発射機能を有するものである以上、装薬、装弾装置と名のつく構造部分がないからといって、何ら銃砲としての要件に欠けるところはない。

以上のとおりであるので、本件手製銃を銃砲にあたるとした原判決には所論指摘の誤りはなく、論旨は理由がない。

二  所論第二点(量刑不当)について

所論は要するに、原判決の量刑は不当に重く、被告人に対しては刑の執行を猶予するのが相当である、というのである。

そこで検討するに、本件は被告人が、妻敦子に暴行を加えて加療約一〇日間を要する顔面打撲の傷害を負わせ、娘卓枝を殺害する目的で本件手製銃、出刃包丁等を準備し、玄関のガラス戸を破って同女の住込先である入江八十吉方へ侵入して殺人の予備をなし、応待に出た同人に対し本件手製銃や出刃包丁を突きつけるなどして脅迫し、不法に右手製銃及び出刃包丁を所持ないし携帯したという事案である。そして、敦子に対する傷害は、被告人が主として自分の短気・粗暴で嫉妬深い性格・行動から夫婦関係を破綻に追い込み、親族等のとりなしで一旦元のさやにおさまるかに見えたのも束の間、離婚話の結着がつくまでの一時期家を出ていた敦子の行動を邪推するなどして、同女に一方的かつ執拗な暴行を加えて負わせたものであり、所論指摘のような、敦子は気が強くわがままであり、これが原因で夫婦喧嘩となり、その程度が過ぎて同女に傷害を負わせる結果となったにすぎない、というが如き底のものではない。また殺人予備の点は、右の暴行を受けた敦子が警察官に救いを求めたことなどから、事を徒らに大きくすると同女を逆うらみし、同女が非常に可愛がっている娘卓枝を殺害し自らも自殺して復しゅうしようとして、同女を求めてその住込先に侵入したものであり、脅迫の点は、応待に出た全く無関係の卓枝の雇主に対してなしたものであり、しかも右過程において、被告人は、携帯した本件手製銃とほぼ同様の構造を有する金属性パイプの導火線に火をつけて火薬を爆発させているのである。これらの事実に照らせば、本件犯行の態様は悪質であり、その動機において同情の余地がなく、被告人の刑責は重いと言わざるをえず、本件手製銃が銃としては極めて幼稚で威力も弱いこと、被告人は自己の行為を反省し、原判示3の脅迫の直後にその被害者に謝罪し、現在では右被害者のほか、敦子及び卓枝も、被告人との別居を続けたい意向を堅持しながらも、被告人に対し寛大な処分を望んでいること、その他被告人の最近の前科としては喧嘩のうえでの傷害罪により罰金刑に処せられたことが一回あるだけであることなど、記録上認められる被告人に有利な一切の事情を斟酌しても、被告人を懲役一年二月の実刑に処した原判決の量刑はやむをえないところであり、これが重すぎて不当であると言うことはできない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹村寿 裁判官 加茂紀久男 瀬戸正義)

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